継承

フジテレビがときどき、歌舞伎役者の1年間ドキュメントを放映するのですが、昨夜は中村勘九郎一家のこの1年でした。コロナのため、稽古を積んだ公演がつぎつぎに延期、結局中止になる。自分のモチベーションも下がるが、抱えている一座の人々の生活もかかっています。座長の勘九郎(未だ30代なんですね)も、さすがに焦燥をカメラの前で隠しませんでした。

しかし2時間近い番組を見終わって、私は勇気と感動を貰いました。何よりも感動したのは、裏方たちに勘九郎が、だいじょうぶかい、と声をかけるとみんな、あっ、だいじょぶっす、と答えるという話。歌舞伎座の黒子もUber EATSのバイトで暮らしをしのいでいると若手役者が投書していましたが、決して大丈夫ではないはず。勘九郎もそれを分かっていて、動画配信などで工夫しながら、弟の七之助と共に、何とか公演を試みます。

息子の勘太郎・長三郎兄弟も可愛いだけでなく、もうしっかり、役者の自覚ができています。コロナのステイホーム期間を利用して、連獅子を叩き込まれ、所作が様になってきました(長男・次男の性格の違いもちゃんと出ていて、勘九郎七之助幼年時代をありありと思い出させます)。親をはやく亡くした勘九郎のために、仁左衛門が上京して手取り足取り指導、こうして芸は承け継がれていきます。

そして最後、浅草寺の野天舞台で連獅子を踊り始めた日、折から激しく降る雨。水しぶきを上げながら、重くなった毛振りをやってのける2人もすごいが、ここでも囃子方たちは、勘九郎の問いに、ああ大丈夫ですよ、と答える。太鼓の皮、三味線の胴もずぶ濡れです。大丈夫なはずはありません―いい仕事をしようと思ったら、めそめそしてはいられない、他人のためではなく。そうつよく思って、TVのスイッチを切りました。