時の言葉

子供の頃は昼食時と夕食時に、ラジオをかけるのが習慣でした。耳から聞く言葉で、意味が判らないながら度々聞いたものに、「コウカンブンゴウ」とか「サンジセイゲン」という語がありました。前者は、小学校に入って、社会科の教科書に「交換分合」(田圃区画整理の手段の一つ)の説明があり、都会育ちには非現実ながらも意味は解りました。後者は、ニュース放送や新聞にしばしば、「やらねばならぬ」急務、といったニュアンスを伴って登場しました。

戦争が終わって、結婚、出産が爆発的に増えたのです。未だ食糧難、学校その他の設備も整わないところへ、子供が生まれても養えない。産児制限をしなければ日本の社会は窮迫する、といった、かなり切羽詰まった掛け声でした。ついこないだまで、産めよ増やせよ、お国に奉公させよと言われ、12人以上子供のいる家には表札と並べて誇らしげな札が掛けられていたのに。産児制限の専門家も来日し、新聞・雑誌では、女性たちの意識改革が叫ばれました。

いま少子化が問題になり、女性に様々な働きかけがなされているのを見ると、複雑な気持ちです。遠い過去のことだけではありません。非正規雇用(当時は「パートタイム」とか、「契約労働」というような語で語られた)が広がり始めた時、マスコミは新しい生き方、自分の趣味も活かせる働き方の時代、とバラ色に語りました。私は大いに疑問を持って眺めていました。ちょうど労働運動が嫌われ始め、労組が形骸化しつつあった時期でもあって、大丈夫なのか?という気が先に立ったのです。

何十年か後、「コウドウヘンヨウ」だの「ゼンリョクシュウチュウ」だのという言葉を耳から聞いて、どんな社会情勢だったか、正しく想像して貰えるでしょうか?