昔物語治聞集

中根千枝・加美甲多・久留島元編著『昔物語治聞集』の翻刻三弥井書店)が出ました。『昔物語治聞集』は、『宇治拾遺物語』と『古今著聞集』とから適宜、説話を抜き出して、貞享元年(1684)に出版された説話集だそうです。元禄14年版や改題本(『宿直座頭』)もあるとのことで、近世初期の仮名草子にも共通する、いわゆる再話もの、女子向けの教訓書でもあったらしい。編著者の3人に、山下茜さんも加わった輪読会の成果だということです。

全体の解説を中根さんが書き、全7巻の各巻の解説を4人で分担して書いています。学部の演習・講読のテキスト向けの仕様で、国語学でも、説話を始めとする国文学でも使えます。テキストとしてはあまり解説が詳しくない方がいいのでしょうが、凡例には底本を元禄14年版とし、解説では貞享元年版としているのは何故でしょうか。また、ところどころ脱字や誤植と思われる箇所があるのは、底本通りなのかどうか、簡単に注記して欲しかったと思います。挿入されている版本挿絵と思われる図版についても、最少限度の書誌的説明があると、版本挿絵の比較対照もできて、使途が広がったのでは。

解説は、説話の選定や配列に、それなりの基準や理由(連想関係)があるのではないか、と苦心して述べていますが、授業では受講者に議論させたら面白いかもしれません。案外、怪異・奇跡譚を集めてみた、といった単純な動機だったかもしれず、真相究明は難しいでしょうが、あれこれ推測する中で、中世と近世の相異が浮かび上がってきたら、しめたものです。

版本挿絵以外に、山下茜さんが描いているカットがとても楽しい。説話文学の本質をよく捉えていると思いました。