美濃国便り・むばたま篇

岐阜の中西達治さんの「巣ごもり通信」が来ました。今回は上段にヒオウギの花、下段に射干玉(ぬばたま)の実の写真が刷られた葉書です。文面には、

[今回の台風は、何とかうまくそれてくれたようですが、この季節思い浮かぶのが『源氏物語』桐壺の一節です。「野分だちてにはかに肌寒き夕暮れのほど」、亡き更衣のすべてが「人よりはことなりしけはひ容貌の、面影につと添ひて思さるるにも、闇のうつつにはなほ劣りけり」。これはいうまでもなく『古今集』の「むば玉の闇のうつつは定かなる夢にいくらもまさらざりけり」を踏まえた表現です。むばたま(古くは射干玉)は、ヒオウギの種です。花から実までほぼ1ヶ月。(中西達治)]とあります。

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射干玉9/22撮影

漆黒のむば玉が、オレンジ色の花ヒオウギの実だということは、注釈類で知っていましたが、こうして写真で見るとその変貌ぶりが印象的です。同時にはじけた鞘から覗くつやつやした実の存在感も、魅力的。これからの季節は、花でなく実や穂、紅葉した葉や枯れかけた蔓などを取り合わせて活けてみるのも楽しみの一つです。

むば玉(「うば玉」とも)は夜、闇、黒などに懸かる枕詞。京都には「うばたま」という名の、黒い餡玉のお菓子があります。『後撰集』に、親心は盲目的で闇も同然、という歌があるのですが(人の親の心は闇にあらねども 子を思ふ道にまどひぬるかな)、名古屋にいた時、隣家に子供が生まれ、若い父親が何かと失策をやらかすので、出張帰りの土産にこのお菓子を持って行きました。多分、意味は分からなかったでしょうね。

ちょうどその頃、ある和歌文学者が、娘が他大学の国文科に入ったので、その指導教授に、ウィスキーのジョニ黒にこの歌を添えて贈った話が有名だったのです。

追記:中西さんにお願いして、ぬばたまの写真を頂き、貼らせて貰いました。