葛の花

名古屋の今井正之助さんから、散歩道の川沿いに葛の花を見つけ、秋を感じましたというメールが来ました。葛は秋の七草の1つですが、同じ豆科の萩とはイメージが殆ど逆。しなだれる枝ごと、その繊細さを観賞する萩に対して、葛は野生の勁さ、逞しさを見せつけ、でも花は意外に可愛らしい。大きな複葉が風に吹かれて白い裏側を見せるのが印象的なので、和歌の世界では裏見=恨みの掛詞がよく用いられ、言に出さなくても恋の怨みの響きがある題材です。草なのに、50年以上長生きするそうです。

一時期は全国的に大繁殖して、JR山手線の土手などを蔽っていました。夏の風景が葛の繁み一色になりそうでしたが、最近は落ち着いたようです。北米では19世紀に土壌保全・園芸用として輸入し、その後あまりにも強い繁殖力が問題視され、駆除方法が研究されたそうですが、逆にその繁殖力を利用して、砂漠緑化の先兵にも使われます。最初に葛を植え、荒れた地表を蔽って保水力を取り戻し、それから植林・開墾をする段取りです。

花は甘い香りがして、けっこう見栄えがします。40年前、未だ自然がふんだんに残る横浜の青葉台に引っ越した時は、野草料理にはまりました。葛の花は穂から外して三杯酢にしてみると、香りも味もいいのですが、折角の色が酢に流れ出てしまって失敗でした。その家を売る時、急に下見に来ると言われて家の中に花もなく、仕方なく路傍の葛の蔓を剪ってきて、玄関の大きな水盤(母の遺品です)に這わせました。香りで客を迎える作戦は成功。首尾よく新婚さんに売れました。

定年後の知人たちは、コロナで遠出がままならず、それぞれの散歩道を頼りに運動量を確保しているようです。中には、藤が丘の忠鉢仁さんのように1日1万3千歩歩く人、博多の従姉のように、真夏日に歩きすぎるなと医者から注意された人もいますが。