平成になってから、つまり大学改革がうるさく言われるようになり、学生気質もすっかり変わって以来、退職する先生への挨拶は決まって、「いやあ、いい時にお辞めになりましたなあ」というものでした。私にはそう言われるタネがなかったので、「お体お大事に」ばかりで、ちょっと寂しい気もしたのですが、今年になって今さらながら、いい時に辞めたのかも、と思ったりしています。
コロナ下で慌ただしく、各大学は一斉にオンライン授業となり、教員も学生も(そして多分、職員も)面食らいながら半年間全力疾走し、疲弊したまま後期へ突入しようとしています。大学の学風やシステムの状態や、開講科目の特性、そして学生の資質によって事情はさまざまで、一律に対面授業と遠隔授業の功罪を論じても意味がないと思いますが、教育現場の率直な声は、愚痴でなく、コロナ後の社会のためにひろく伝えられていい、いや伝えられるべきではないかと思います。
学生の悲鳴はネット上で問題になりましたが、新入生の親となった教え子からは、入った大学に全く行かぬまま、教師とも同期の友人とも接触がない学生生活を見ていると疑問を感じる、との手紙を貰いました。オンライン授業にすると、学生個人個人とつながることになり、質問が殺到するのはいいが捌ききれない、大学が提供するものは何なのかと考えるようになった、とのメールを若い教員から貰いました。中には疲労のあまり倒れる教員や、定年を目前に早期退職した教員もいるらしい。
専任教員よりも非常勤講師の方がもっと大変だ、と言ってきた人もいます。複数の大学を掛け持ちする場合、大学ごとにシステムが異なり、授業の準備を別個に用意し、学生への対応も1対1で、即座にしなければならない。こういう1年、さらにこの後の大学教育が、社会に、正負ともどんな結果をもたらすのか、壮大で深刻な実験です。