美濃国便り・煙草篇

岐阜の中西達治さんから、ナンバンギセルとイワタバコの写真つきの葉書が来ました。

[イワタバコは野菜の萵苣(ちしゃ)に似ているところから岩萵苣とも、ナンバンギセルは首を垂れたような花の姿から、思い草とも呼ばれており、いずれも在来種、後者は『万葉集』にも出てきます。近世初頭、大航海時代の余波で日本列島にもたらされた、新しい嗜好品の煙草が大流行、草の名前もそれに因んで変わったらしく、当時はおしゃれな名前だったのでしょう。

学生時代には未だ「薩摩守」(タダノリの洒落)、「キセル乗車」(出発駅と下車駅の近辺のみの乗車券で乗ること)という言葉が生きていましたが、煙草が社会全体から禁忌とされる昨今では、煙管を知っている最後の世代となりそうです(中西達治)。]

イワタバコは国東半島を訪ねた時、巨石に苔と共にしがみつくように咲いているのを見ました。ナンバンギセルは40年前、南町田の職場へ通う途中の路傍で初めて見ました。植物図鑑の知識が実物となって眼前に顕れる喜びは、格別なものです。

煙草栽培がいかに大変な家族労働に支えられているかは、『綴り方教室』で知っていました。背丈より大きく茂る畑で、釣り鐘形の花が咲いているのを信濃で見かけ、どうして切り花にしないのかなあ(結構綺麗な花です)と思いましたが、ヤニが出て水揚げしないのだろうな、と合点しました。我が家でも、かつて父が真鍮の煙管を使っていましたが、紙縒りを作って管を掃除するなど手間がかかるので、紙巻煙草になりました。

中西さんには写真掲載をお願いしたのですが、「身近にある景物を時期に合わせて取り上げているだけの巣ごもり便りです。煙草の葉が似ているということを知っていなくちゃ命名の由来は分からないとか、これにもいろいろ苦情があって」と断られました。