上洛の記千年

和田律子・福家俊幸編『更級日記 上洛の記千年ー東国からの視座』(武蔵野書院)という本が出ました。2020年は、『更級日記』の作者菅原孝標女が、父の任国であった上総から上洛した寛仁4年(1020)からちょうど千年に当たるのだそうで、その記念事業として、東国からの視点を取り入れた論集を企画した由。全430頁の大冊です。

特色は国文学の論考だけでなく、房総古代道研究会の活動成果も盛り込み、付録に「市原市国分寺区画整理前原形測量図」のDVDがついているという、学際的な地域還元を意識した構成になっていることです。目次を見ると、「『更級日記』時代の東国の交通事情」とか「『更級日記』と上総国府」、「上総国は高級麻織物の大国だった」というような論題もあって、編者としては苦労も多かったのではないかと思われますが、版元の社長が創業百周年記念事業として積極的に関わり、まとめ上げたということです。

更級日記』は若い頃に読んで以来、読み直す機会がないままですが、何故かほの暗さだけが記憶に残っていて、事件としては分かりやすい内容の、さほど長くない割にはいまひとつ、遠い作品でした。現在の研究では、孝標女が物語作者であったことはほぼ事実と認められているようで、東国の歴史的研究も蓄積ができ、今後、新たな展開が望めるのかもしれません。

国文学の論考では、福家俊幸「『更級日記』の内なる東国」、和田律子「『更級日記』における阿弥陀来迎夢の意味」、伊藤守幸「『更級日記』における東国の意味」、それに佐倉由泰「たけしばの記述から見る『更級日記』ーなびく瓢に共振するものー」を興味深く読みました(もっと短く書けるなあ、と思った論もありましたが)。「なびく瓢」については、ちょっと違ったイメージもありそうで、考えてみたいと思います。