鬼百合

鬼百合が咲いています。この界隈で咲いているのは、私がたまプラーザのキャンパスに出講していた頃、校門の脇の鬼百合のむかごを採ってきて播いたものです。構内には万葉植物が植えてあるのですが、鬼百合は見上げる程堂々とした風姿で、むかごも大きくて真っ黒、思わず採らずにはいられなかったのです。最初は住んでいるマンションの玄関の植え込みに播いたのですが、花が咲く頃になるとへし折る奴がいる(どうやら、花粉が服につくのを嫌がって折るらしい)。憤慨して、あちこちへ播いてやろうと決心しました。

その後、ここへ越してきてからベランダで育てようとしたのですが、植木鉢ではなかなか大きくなりません。百合は、むかごを播いて翌年は単子葉が出、2年目は茎が育ち、3年目で花が咲きます。4年経っても埒が明かないので、やむなく落花生くらいの大きさの百合根を掘り出して、甘辛く煮て食べました。郵便局のプランターや街路樹の根元や、車止めの鉢などに播いたものは、この頃立派な花を咲かせています。

子供の頃、鬼百合はよく見かけました。黒揚羽がよく似合う。祖母は花弁を1枚抜いて吹き、風船のように膨らます遊びを教えてくれましたが、私には上手くできませんでした。庭にも合いますが、勢いのいい夏草の茂みの中で咲く朱色の花が印象的です。

鳥取から、日本海側を回って山口県へ向かって行く列車に乗ると、荒海に臨む人気のない崖が延々と続き、松本清張の世界を思わせます。夏でも色のない風景のように見える中に、車窓をかすめる朱色の百合の花が眼に残ります。昨日今日、氾濫が報じられる江の川の流域です。寂しい、心の冷えるような風景ですが、何故かもう一度、あの百合の花を見に行きたい、夢の中でもいいから、と思ったりします。