矢車

快晴ながらやや風の強い朝。人を避けて用足しに出かけました。和菓子屋にはもう柏餅が出ていました。そう、この時季の風は、鯉のぼりの鯉を泳がせ、矢車を回すだけの力がある風です。川上澄生の詩を思い出します。

岐阜の中西達治さんから葉書が来ました。ヤグルマソウヤグルマギクの写真が上下2段に印刷された、綺麗な絵葉書です。子供の頃、「矢車草」はこの季節に切り花で売られ、庭でも栽培される、ありふれた花でした。育てる過程のことを何も覚えていないところからすると、播種した後は手のかからない花だったのでしょう。ある時期から、この花は矢車菊と呼ばれるようになり、色も多様になりました。名前が2つあることは知っていましたが、ー菊と呼ぶよりー草と呼ぶ方が相応しい気がして(根拠は無いのですが、茎の勁さの感覚からそう思いました)、私的にはずっと矢車草で通してきました。

その後、欧州大陸では古代からこの花が人間の傍らにあったこと、今でも欧州では、麦畑の雑草交じりに、コクリコ(雛罌粟)とこの花が咲き乱れることを知って、深い紺青色(と雛罌粟の赤と麦の若緑)は、5月の田園そのものだと印象づけられました。

中西さんの絵葉書には、山野草ヤグルマソウと、庭先のヤグルマギクとを並べて、啄木の歌を添えてありましたー函館の青柳町こそかなしけれ友の恋歌やぐるまの花。山野草の方は白い花でユキノシタ科、葉の形が矢車に似ているから、園芸植物の方は花が矢車に似ているからその名がついたとのこと。「おかわりありませんか。どこにもいけない、ごあいさつです。」という文面です。そうだ、外出の難しい年長者や昔の仕事仲間に、この時節、葉書1枚書くのもいいな、と思いました。

やぐるまの花の絵葉書は、メモスタンドに立てて、PCの傍に置いてあります。