渋谷の早春

久しぶりの晴天、布団を干したいのに、と思いながら大学図書館へ出かけました。いま編んでいる本の、挿絵や表紙に使う写真を撮影するためです。屋島合戦の絵巻や、三代記の寛永版本、『曽我物語』の正保版本などを見せて貰いました。

正保3年版『曽我物語』は挿絵が多く、稚味溢れる画風が微笑ましい本です。絵の丁付は、「又○丁」という風に、本文のどこに差し込むかを示しています(時代が降ると、本文と通しになる)。袋綴ですから、版木は1丁の表裏を開いた形で(つまり、2面の絵が並んだ形で)彫って摺るわけですが、2面の絵は時間的に連続性があり、本文内容と密接な位置に挿入されています。画面に、摺った際の汚れが残った場合は胡粉を塗って消したりもしており、商品としての心遣いも見受けられます。裏見返しに挿絵丁が貼り付けてある本は、初めて見ました。

必要な撮影が済み、版元との打ち合わせも終わって、閲覧室へ戻り、新刊書や新着雑誌をチェックしました。すでに春休みに入っているためもあって、人少なです。昼食後の珈琲を飲みながら、こういう時間がどんなに贅沢なものか、学生時代には分からないんだよなあ、とつくづく思いました。

バス停でぱらりと雨粒が落ちてきて、花時の通り雨だなと思いました。卒業式も入学式も中止になったそうですが、春はもう始まっています。銀座線のホームが便利に、綺麗になりましたが、ヒカリエの食料売り場は殆ど使い物にならない(工事中で店舗が減り、出している商品も値が上がって質が下がった)状態になっていました。マスクが入手出来ないと言われながら、街行く人の90%以上がマスクをしているのは、不思議です。