六道輪廻の世界

紀尾井町小ホールへ、「声明と平家琵琶―六道輪廻の世界」を聴きに出かけました。薦田治子さんが主宰する平家語り研究会の公演です。すでに検校から肉声で伝承することは難しくなった平家語りですが、薦田さんは文化庁の後援も得て、譜本の研究をもとに邦楽の若手演奏家3名と共に演奏復活を試みてきました。

昼夜2回公演で、私が行ったのは昼の部、200人のホールは満席でした。95%が高齢者なので、咳やらくしゃみやらが続発、私も慌ててマスクをかけました。でもこれだけの集客力が平家語りにはあるんだなあと、感心しました。

最初に未だ稽古中の2名も加えて5名で、「祇園精舎」の冒頭を斉唱、若くて声がよく伸びるので、壮観でした。次に天台声明「六道講式」の演唱があり、美しいハーモニーに、このところ寝不足だった私は思わずとろとろしました。

その後、声明の専門家近藤静乃さんの解説で、声明と平家語りの共通性が実演と共に示され、平家琵琶の伴奏は声明によく調和し、ちっとも違和感がないことが判りました。最後に3名のツレ平家で、「六道」の一部が語られ、1年間の上達著しく、なるほどこれなら芸能として上演できる、と思いました。未だ味があると言うほどではありませんが、平家語りとはこういうものだ、と知って貰うには十分です(素声はもう少し、工夫が必要かなあとも思いました)。しかし盲人の芸能として伝わってきた暗さや神秘性は全くなくなり、今後は劇場芸になっていくんだろうな、という気もしました。

終わって出たら、霧雨の中、夜の部の開演を待つ行列が出来ていました。こちらはもう少し、平均年齢が低そうです。濡れた枯草が甘い香りを放つ大学の土手をぐるりと回って、四谷駅から帰りました。