追悼岩佐美代子

岩佐美代子さんの訃報を知りました。最近は学会でお会いすることもあまりありませんでしたが、17日に肺炎で亡くなったとのこと。ファンの多い方でしたので、ネット上には追慕の言が溢れています。

いつも和服で、盛装でなく普段にごく着慣れていらっしゃる雰囲気が、素敵でした。国会図書館のカードボックスの谷間で遭遇したり、颯爽とした学会発表に憧れたりしていたのですが、ちょうど私が鳥取へ赴任した頃、おつきあいができて、女性だけの執筆陣で文学史の教科書を作ることになりました。

今どきと違ってべつにジェンダー論をやる所存はなく、いつも男性のリードの下でしか発信が出来ないのはごめんだ、という気持ちで一致した4人グループでした。そうして出来たのが『新選中世の文学』(和泉書院 初版1987)です。勤務先で文学史を講じる際に、いちいち例文をコピーして教材を作るより、自前の教科書を編んだ方が便利だと考えたのです。ある時期から、解説が名文すぎて、今の学生にはすでに古典になってしまった、と言われ、それでもオンデマンドで使ってくださる方がありました。

岩佐さんの周囲は常にファンが十重二十重に囲んでいて、だんだん近づきにくくなりました。宮廷生活の実体験者としての発言だけでなく、こむつかしい理論や難解な資料に頼らず、自身の読みとわかりやすい文章で綴る解析とが武器の研究法は、他の誰も真似できない、特有のものでした。

2014年の退職前、勤務校での担当科目は殆どが演習で、文学史は若手教員の担当でしたが、最後だからと、久しぶりでこの教科書を使ってみました。なるほど、今の学生にはもう難しいかもしれません。岩佐さんがおられたから出来た仕事でした。 合掌。