読後感・3の1

村上學さんから、『平和の世は来るかー太平記』の読後感が、メールで送られてきました。村上さんは、『曽我物語』『義経記』の諸本や語り物の研究の大家です。短評ながらさすがに痛いところ、痒いところを衝かれましたので、許諾を得て紹介します。

[ 軍記物語講座第3巻、とりあえずページを繰りおおせた粗雑な印象を記します。『太平記』は全く不勉強で、素人の感想です。一般的に言えば講座の志向は二つあると思います。一つは現在の研究状況の先端の披瀝と紹介。一つは作品の新しい魅力を提示して若い研究者を引き込む性格。ともに複数の論者によって総合性が形成される。この第3巻は「まえがき」を拝読したところでは前者を志向しており、よそから見た時、『太平記』の研究状況の特質が露呈していると読みました。

大森さんの論考が加わっていれば別の印象になったかも知れません。それを補うようなのが呉座さんの明快大胆な推論だったのは、歴史学と国文学の研究方法の特質との差をまざまざと見せつけられる気がしました。各論考とも「はじめに」で明快に問題提起がされ、それについて論考が展開している点は、この講座の基本的特性をなしていると思います。その論考部分で完結していない結果になっている小秋元さん森田さんの論は、問題の性格上必然かと読みました。一方、明快でつるつる読める文章もあって、素人には有難いが、結果的に周囲と均衡が取れていない印象がありました。

それにしても、長坂さんの論考に見る諸本論の歴史と進展には驚きました。(村上學)]

本講座の趣旨には、若手・他分野の研究者のみならず、一般読者も対象に含むと謳ったのですが、古典を「分かりやすく」するイメージが執筆者によって異なり、不均衡は配列で何とかカバーしようとしてみました。お読みになった方は感想をお聞かせ下さい。