樹木たちの生活

ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活―森林管理官が聴いた森の声―』(長谷川圭訳 早川書房 2018)を読みました。2015年にドイツでベストセラーとなった本を翻訳、文庫化したものです。著者は1964年生まれ。大学で林業を学び、20年以上営林署に勤務するうち、行政の森林管理に疑問を持ち、フリーランスの営林者(ドイツにはそういう立場があるんですね)になり、今では地方自治体が彼に森林管理と保護を委託するようになったそうです。

ドイツでは森が人々の日常生活の中で深く愛されていることは有名です。山林の多い日本とは共通点もあり、相違点も多い。ブナやトウヒなどの樹木が主役のように出て来ますが、日本の植生とはやや違うので、ぴんと来ない部分もあります。

しかし本書は、私たち都会人の疲れを癒やしてくれるだけでなく、まなざしを変え、発想の転換を手助けしてくれます。徹底して樹木の目線で語られているからです。樹木には仲間との連携関係があり、コミュニケーションができ、次世代との交信もある、などと言われたら、これは比喩かおとぎ話かだろうと思ってしまいますが、じつは相当部分、真実なのです。永年、植木を育てている間に不審に思っていたことが解決したり、今後の参考になったりしたことも少なくありません。単なる擬人化でなく、著者は樹木を、人間とは異なる進化を遂げた生物として見ようとしているのです。

偶々私は、数多くの論文を下読みして編集する作業と並行して本書を読んだので、自分とは異なる目で状況を見、予兆を感じるという点で、大いに助けられました。単なる環境保護の書ではなく、滋味溢れるエッセーとして読むことをお奨めします。