烏賊を煮る

原稿の下書きを1本、やっと書き上げたらもう6時。外へ出てみると雨が降り始めていたので引き返し、傘を持って買い物に出かけました。行きつけの肉屋は、今日は私が最後の客。女将が「烏賊、食べる?」と言う。手伝っている娘が、慌てて指を口に当てました。隣は魚屋なのです。

常連客が、釣ってきた烏賊をたくさん呉れたのでお裾分け、と素早く1杯包んでくれました。我が家には刺身包丁がなかったっけ、と思いながら帰り、ぶつ切りにして生姜と一緒にさっと煮ました。新鮮なので、歯ごたえと軟らかさの兼ね合いがちょうどよく、わたが絡んで味付けになっています。これは麦酒ではけりがつきません。新潟県内限定流通という生酒「高千代」をオンザロックで。

網にかかった烏賊を漁船の甲板に引き揚げると、もの悲しい声で鳴くそうです。海上自衛隊に勤めたことのある知人から聞きました。獲っても自分では食べる気にならない、と言っていました。烏賊釣り船の集魚灯がネックレスのように日本海の水平線を彩る光景を、飛行機の上から眺めた記憶があります。灯りに引き寄せられて一網打尽となる烏賊の鳴き声は、想像するだけでも悲しいでしょう。

今夜はじっくり、と思って呑みはじめたら、酒の廻らぬうちに名古屋から電話がかかり、『太平記』構想論の話を聞かされました。若手も老年もそれぞれに、新しい『太平記』論への意気込みがあるようです。『太平記』研究は今が旬、なのかもしれません。

軍記物語講座第1回配本は『太平記』です。まもなく校了です。