鬼灯

ほおずきを作れる子はもう少数派でしょうか。子供の頃、夏にはほおずきを作って鳴らしました。祖母に教わった作り方です。

赤い、提灯のような萼を天辺から8つくらいに裂き、折り返しててるてる坊主のような格好にします。片手で足の方を持ち、片手で頭のつやつやした珠をゆっくり揉みほぐします。丁寧に、根気よく-そのうち果皮が透けて、中身の白い種子が見えるようになるので、珠と萼のくっついた部分を慎重に剥がしていきます。失敗するのはたいていここ。円形の口の部分が切れると、もうできません。成功すれば、果皮が浮いて、ぐるぐる回せるようになるので、足の部分を静かに回して、珠の天辺につながっている中身を引き抜きます。2度目の関門はここで、中身の方が大きいのを、小さな円形の口から、騙し騙し引き抜いていきます。朱い汁が流れ出ますが、甘酸っぱいので吸ったものでした。口が破れずに引き抜けたら、できあがり。

水で洗って残った種子を出し、口に含んで、舌と上顎とで空気を入れたり圧し潰したりして鳴らします。泉鏡花の「婦系図」の冒頭は、お蔦がほおずきを鳴らしている場面から始まりますが、そのかすかな違和感が、作品全体の伏線になっているので有名です。

湘南地方には、海ほおずきというものもありました。貝の卵嚢を若い衆が獲ってきてくれ、梅の漬け汁などに浸して染めるのです。従姉たちが惜しみながら分けてくれましたが、子供には鳴らすのが難しい。

ほおずき作りは、癇癪を起こさず、我慢強くやらないとできません。幼年時代の一時期には貴重な時間でした。蚊に刺されるとほおずきは作れなくなるので、夜は蚊帳に入れて、枕元に置いて寝たものです。今でも鬼灯が店先に並ぶとわくわくします。