書誌調査

高木浩明さんから「調査研究報告」39号(国文学研究資料館)を頂きました。高木さんはずっと古活字版の悉皆調査を志し、独力で調査を続け、毎年その結果をいろいろなところへ発表してきました。勤務先に研究機関がないので、一貫して同じ雑誌に発表することができないのですが、いずれ大きなDBとして一つにまとめられるでしょう。本誌には「国文学研究資料館蔵古活字版悉皆調査目録稿―附、国立国語研究所・研医会図書館蔵本」と題し、ピーター・コーニツキー氏を代表とする共同研究「江戸時代初期出版と学問の総合的研究」(2015~2018。かつて岡雅彦さんが作った『江戸時代初期出版年表』(勉誠出版)の一部を補足する研究です)に加わって得た成果を発表しています。

古活字版の研究では、書誌学者川瀬一馬氏の『古活字版の研究』(1937 増補版1967)という大著がありますが、その後高木さんは90種以上を付け加え、昨年12月までに合計1080点の書誌情報を集めました。作品名やジャンルにこだわらず、所蔵者ごとの悉皆調査です。その根気と熱意には頭が下がります。同時に、なかなか同業者との意見交換の機会がなく、客観的評価を正しく掴むことが難しいのも、よく分かります。

研究者の多くは、時間のある限り自分の研究対象の伝本を見て歩き、そのデータを溜め込んでいるものですが、平家物語では、若かりし頃の山下宏明さんの右に出る人はいなかった、と言ってもいいでしょう。恩師も山下さんの行動力には感嘆しておられました(山下君は、平家物語があると聞くと、日本中どこでも飛んで行っちゃうんだよ、と)。蓄積したデータは、それだけでは役に立たなくても、知らず知らず自分の勘を養ってくれるのです。むしろ後日、輸入理論や見場のいい仮説に惑わされそうな時、その勘が自分の指針になるように、大切にしておくべきかもしれません。