台湾の平曲譜本

鈴木孝庸さんから、国立台湾大学図書館典蔵平家物語音譜本第一巻『平家物語節付語り本』(国立台湾大学 2018)という本を頂きました。台湾大学は、かつての台北帝国大学であり、近世から近代初期の和古書を多く所蔵していますが、その大半が未整理のままらしい。鈴木さんは定年後、ボランティアで台湾へ通って、大学図書館の手助けをしているそうです。勿論、ご自分の研究テーマである平曲譜本や軍記物語の調査も目的の一つです。

本書は、その中の波多野流譜本2冊(「我身栄華」を始め22句)の影印と翻刻に解説を付した、全550頁にも及ぶ大著です。鈴木さんの解説も分かりやすい上に、しばしば貴重な指摘があり、共編者の孫暘さんが平家物語の芸能関連記事について書いているのも楽しく読めます。

鈴木さんは平曲譜本の総体を見渡せる研究者としてだけでなく、前田流平曲の演奏家としても平家物語200句全部と秘事の伝授を受け、この3月末に通し語りを完結されました。「平家語りと聴かせどころ」(新潟大学「人文科学研究」144輯 2019/3 )には譜本『平曲中音集』の影印と翻字を載せると共に、実際に演誦した経験に基づくコメントを記しています。

自他共に認めるマイペースの人ですが、定年後ますます活躍の幅が広がり、演奏もようやく鑑賞に堪えるほどになってきて(失礼。でもこれは大方の評判)、楽しそうに忙しく走り回っています。公演を聴く機会があれば、一度はお出かけになるのもいいと思います。公演のお問い合わせその他は、tsune75@human.niigata-u.ac.jpまで。