転換する文法

吉田永弘さんの『転換する日本語文法』(和泉書院)という本が出ました。本人は30代で単著を出す計画だったようですが、学内ではやくから、若いけどしっかりしている、という評判が立ってしまって、校務に逐われ、ようやく実現したようです。それゆえ、今まで書いてきた論文数は、本書の何倍もあるはず。

本書は、Ⅰ古代語文法の変容 Ⅱ条件表現 Ⅲ可能表現 Ⅳ尊敬表現 Ⅴ断定表現 という構成になっていて、取り上げた語は「ほどに」「によって」「ために」「とも・ても」「たとひ」の接続表現、「る・らる」「にてあり」「たり」の助動詞など、16章に亘って考察しています。

日本語学の手法や用語(そもそも横書き)に慣れていないので、まず「はじめに」とⅠ-1「転換期としての中世」で、問題意識を確認しました。著者自身が、「きわめて素朴」な問題意識から出発したと言う通り、例えば已然形と仮定形の関係、助動詞る・らるの4種類の意味の共通性といった、高校生でも疑問に思うような問題を、用例を検討しながら解いていくうちに、語法や語意が変化する過程が照らし出されてきます。

私は、各章の「おわりに」という結論部分を読んでから、気になる論証部分に戻って読み、時々、ん?この用例の解釈はこれでいいかな、などとツッコミながら読みました。複雑繁多な言語現象を、抽象的かつシンプルな法則に整理していく推論過程が面白く、思考法としても参考になります。専門外の私が授業に必要な範囲で解説してきた文法も、もっと面白く語れたなあとの反省も湧きました。高校現場にお奨めします。生徒と教師が、本書を間にはさんで議論することもできそうです。

巻末に「資料の成立年代と書写年代」との弁別の必要を説き、『平家物語』に関する自らの論文を2本挙げているので、間を置かずに、次著を出す予定だと憶測しています。