武者の世の始まり

坂井孝一さんの『承久の乱』(中公新書 2018)を読みました。分かりやすく、すいすい読める本です。中高の日本史で習ったことと、軍記物語に関わることで断片的に身についた知識とがつながって、おぼろけながら13世紀初頭が見えてきました。著者自身が言っているように、院政の成立と展開、武家政権の成立発展を見渡せるように承久の乱が位置づけられ、しかも文化史的視点を保ち続けながら著述されているところが本書の特徴です。

坂井さんの見解は、後鳥羽院鎌倉幕府打倒を意図したのではなく、あくまで北条義時を排除して幕府をコントロール下に置こうとしたのであったが、幕府側が武士政権存亡の危機感を煽って反撃体勢を整えたため、敗北した公家側はそれ以降、幕府の支配を受けることになったのだ、というものです。その引き金となったのが実朝の暗殺、そして源頼茂の乱によって焼失した大内裏再建の不如意であったという組み立ては、大いに納得できるものです。

我々の承久の乱及び後鳥羽院観は、後醍醐天皇による倒幕、15~16世紀以降の『吾妻鏡』の流布を経て形成されてきたものだ、との指摘も肯けます。従来も言われていたことではありますが、「真の武者の世」は承久3年に始まったのであり、以後大政奉還まで、武家はその政治的優位性を公家に渡すことはなく、承久の乱はそういう画期の始まりだった、との結論は今や日本史の基礎知識と言っていいでしょう。

私としては承久の乱後、後嵯峨院時代の文化サロンにつよい関心があります。平家物語の成立は仁治元年以前ではなく、微妙な期間ですがそれよりやや遅れて、進捗しつつあったのではないかと考えるからです。