美容師の正月

近所の美容院へ調髪に行きました。いつ行っても待たされることのない、つまり客数の少ない美容院で、主は若く見えるが60代になったばかりの、地元出身の美容師です。妻子は近所で妻の親と同居し、自分は母親の店を継いだらしい。家事一切をこなし、買い物上手が自慢です。

正月はどうだった、と訊いてみるとー大晦日はとにかく忙しくて走り回っていた、という。もう晴着の着付けに来るような客はいないようで、以前はおせち料理も作ったし、近くの郵便局に大鍋で差し入れもしたそうですが、今はもうやめたのにただただ忙しかったとのこと。

元旦は家族も起きてこないので、朝早く自転車で皇居を一周したそうです。それから町内会代表で氏神白山神社へお参りし、また自転車で水道橋のパン屋へ行って、デニッシュトーストを買い、さらに南千住へ鮮魚を買いに行ったと言うので、元旦にも開いている店がそんなにあるんだ、と吃驚しました。今年は活きのいいひらまさが1枚出ていた、丹後で揚がったのだそうで、さっそくさばいて半身は刺身、半身は昆布だしでしゃぶしゃぶにした、岡山の山村に嫁いだ娘が祖母の喪中を理由に里帰りしてきていたので、一家で鍋を囲んだが、だしは娘が美味しい美味しいと全部飲んでしまった、と嬉しそうに話し続けました。その声には、遠くへ嫁にやった娘が、今も自分の手料理を喜んでくれる幸福感が聴き取れたような気がしました。

2日目は新丸ビルへ、オーストラリア牛を食べに行ったが、皇居の一般参賀帰りの客でごった返していたそうです。新宿まで行って、ミュシャ展を観てきたと言っていました。そう言えば店に、彼が若い頃に描いたデッサンが飾ってあるのですが、どことなくミュシャの雰囲気に似ている。それはいい正月だったね、と言って店を出ました。