天空の街

源平盛衰記の共同研究の、乱版(みだればん)調査に便乗し、神田川を見下ろす静かな文庫で、終日版本をめくって過ごしました。乱版とは、1冊の本の中に整版(1枚の板に1頁分を彫って刷る)と古活字版(1字1字を木で作って並べ、1頁分を組んで刷る)とが入り交じっているものを言います。どうしてそんな製本をしたのか、諸説が出されていますが、確定していません。源平盛衰記の場合は、無刊記整版本と呼ばれる近世初期の整版本に、漢字部分に振仮名のある古活字版の丁が混じっているものが何点か報告されているのですが、調べていくうちにかなり多くの点数があることが判り、しかも古活字版の箇所が一定していないことが分かってきました。

今日は25冊1揃の乱版と24冊1揃の無刊記整版本と、端本(4巻2冊しか残っていない)1組とを閲覧しました。私は端本から見ていったのですが、これも乱版で、古活字の箇所が多いことが判りました。25冊の乱版は整版の方が多い、刷りのよい1組でした。24冊の方は、ぱらぱら見ただけで典型的な無刊記整版本だなと判断を下そうとした時、ある巻の最終丁がちょっと気になり、書誌に詳しい連れに見て貰うと、この丁は古活字版、つまりこの本は乱版だという。ことの重大さに青ざめました。48巻24冊の中にたった5丁だけ古活字版がまじっているような乱版もある、という例が現出したからです。従来、単なる無刊記整版本と判定されてきた源平盛衰記の点数は、全国に3桁はあるでしょう。

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このことが今後何を意味するか、深く考えるのは先延ばしして、文庫を出ました。高校時代に通ったアテネフランセの前を通り、ソラシティへ寄って呑むことにしました。黄金色のクリスマスツリーが輝いていました。