子供の頃は柿を食べると何故か、お腹を壊しました。ある時、柿の形をした和菓子を食べてやはりお腹を壊し、子供心にもこれは気のせいだと思って、柿を恐れなくなりました。講談で、刑場に引かれる武士が最後の食事に柿を出され、腹が冷えるから、と言って辞退する話を聞いたからかもしれません。

鈴なりの柿の実に夕陽が当たる、その傍らに佇む日本の基督像をイメージしたのは芥川龍之介でした。柿の木と夕陽は、日本の晩秋の原風景と言えそうです。

百歳になった叔父の思い出話によれば、子供の頃、屋敷の塀越しに柿の実が見えれば、悪童どもは必ず忍び込んで失敬したものだった(当時、子供たちは果物は店で買うものではなく、立ち木から手に入れるもの、と考えていたふしがあります)が、同級生に早く父を亡くした武家出身の子がいて、育ててくれた姉に仏壇の前に座らされ、武士の子が他人様のものを盗むとはご先祖様に申し訳がない、と懐剣を膝の前に置かれ、おまえ1人を死なせはしない、と言い添えられて震え上がったそうです。大正時代はそんな時代でした。

砂糖が普及する以前は、日本人の味覚の「甘い」は、柿の甘さくらいが標準だった、という話を何かで読んだことがあります。現代は野菜も果物もどんどん糖度が上がって、基準があやしくなりました。店頭で不思議に思うのは、この頃売っている富有柿も種なし柿も、真四角です(箱詰めには便利)が、自然の形状なのでしょうか。輸送に都合よく品種改良されたのかしら。ちょっと哀れな気もします。