かぶる

大新聞、と言われている紙面で、「知ったかぶった」という語を見つけて仰天しました。知ったかぶりをした、という意味らしい。もともとこの語は「知ったか」+「ふり」で、「知った」+「かぶり」ではありません。動詞にするなら、サ変の目的語にするしかない。そう言えば以前、悟り顔の豚シッタカブッタを主人公にした漫画があったっけ、と思いながら辞書を引くと、「知ったぶり」という言い方もあって、いずれも近世後半から使われ始めたようです。

「かぶる」という語には、囓るという意味の別語もあります。「かぶりつく」という語ならごく一般的に使われます。福岡地方ではゴキブリのことをゴッカと言いますが、もともと「ごきかぶり」、御器を囓る虫という意味の「ごっかぶり」から訛っていったようです(御器を被っている虫、という解釈もできそうですが)。福岡方言には「言いかぶる」という語もあって、どんどん言い募って、しまいには興奮のあまり自ら何を言っているのかわきまえなくなるような状態を言います。時々そういう習癖のある人に出会っても、冷静に眺められるのは、この言い回しのあるおかげだ、と思っています。この場合の「かぶる」は、頭から被る、という意味の方でしょうね。

ある時期から、重複することを「かぶる」と言うのを不思議に思わなくなりましたが、若い頃は「だぶる」と言っていました。しかしこれは、もともとdoubleという英語の名詞を動詞化したものですから、動詞化しないはずの複合語が動詞化させられてゆくのを止めることも、難しいかもしれません。