『素敵な話』

昨日、本屋で買ってきた『看護師も涙した 老人ホームの素敵な話』(小島すがも 東邦出版 ¥税込1500)を1晩で読みました。書名がいやらしいが、ほんとに素敵な本です。まず本作りが素晴らしい。読みやすく、文中に出てくる福祉の基本用語には、頁の端に簡明正確な注がつけてあり、誤植も少なく、第一、文章が巧い。著者名はペンネームでしょうが、ユーモアと泣かせ所をきちんと押さえています。若い著者の謙虚さ、けなげさ、進歩が感じ取れるあたり、もしフィクションだったら青春小説作家として立っていけるのでは(著者紹介にはアラサーのナースとある)。色鉛筆による、小学生の作品みたいな挿絵も似合っています。奥付を見ると、5月に初版が出て、すでに再版6刷だそう。

全234頁、老人ホームに魅せられて、人生で必要なことはぜんぶ入居者が教えてくれる、親子の絆、夫婦愛、ひとりで生きていく、施設に新風を吹き込んだガハハな一家、といった章立てになっていて、19話のショートストーリーのどれもが、涙あり笑いあり、教訓あり共感あり、しかもわざとらしくない。

老人ホームといえば汚く、きつく、暗く、行き場のない看護師が勤めるところ、というイメージが一掃されます。一方、こんな理想的な施設や介護さんたちって、ほんとにいるの?と思う人も少なくないと思います。版元には問い合わせが殺到しているかもしれません。しかしこれほど理想的環境はないとしても、独りで介護を抱え込んでいる人、親を施設に入れて後ろめたさを感じている人、独り暮らしの老後を心配している人、介護職を選ぶのに躊躇している人等々、いろいろな人に一読をお勧めしたいと思います。

そして・・・もし小島さんが実在の看護師さんならば、こういう人を辞めさせてはいけない、そうならないように、私たちは何ができるのか、とつよく思いました。