中世文学第63号

中世文学会の機関誌「中世文学」63号が出たので、関心のある箇所を読みました。講演録「中世根来寺の法儀と聖教」(永村真 2017/11/04)・「「2人の三郎」からみた室町時代「能作」史」(天野文雄 同)がためになりました。

シンポジウム報告「「散文のなかの〈和歌〉」を終えて」(阿部真弓 2017/05/27)・「作り物語の和歌的表現」(新美哲彦)・「いくさの舞台と叙景歌表現」(北村昌幸)・「説話と和歌とはいかに結びつくか」(菊地仁)は、目下リサーチしているテーマに関連するところがあって興味ふかく、殊に北村さんの報告は、太平記の合戦場面に名所歌意識や比喩としての自然描写が見られ、しかも和歌的表現と漢詩的表現とは併用される場合もあることを指摘していて、問題のその先を考えさせられました。しかし太平記平家物語の相違については十分な説明とは言いがたく、また覚一本同士の異同についても小さな発見が得られたので、いつか私が書いてみたいと思います。

論文では家永香織さんの「源仲正の寄物型恋題歌群」が面白かった。仲正は俳諧歌的な作風で知られていますが、その子頼政は和歌の名手として『無名抄』でも平家物語の中でも有名です。若い頃、武士の詠歌について、例えば仲正一族をどう考えたらいいか悩んだこともあり、「俳諧歌」と括るのでなく、虚構の寄物詠として解析していけば視野がひらける、と納得しました。

岩崎雅彦さんの「『直談因縁集』と狂言」は、狂言「磁石」について、前半は人売り説話を読み替えて、騙した方が騙される面白さを、後半は磁石説話を利用して、意外な方法で危機を切り抜けるスリルを盛り込んだ、演劇的構成法だと述べています。単なる典拠論でなく、素材がどう活かされたかがよく分かります。