語学力

聖徳大学短大部国語国文学会誌「文学研究」第29号所載の、辻英子さんの半生記「菩提樹の木陰で」を読みました。辻さんは説話の日中印比較文学的研究が専門で、80歳になった今も在外絵巻の調査・紹介を精力的に続けておられますが、1970年、ご主人のウィーン駐在に未だ幼いお子さん2人と共に同行し、ウィーン大学で学んで以来の体験が綴られています。

当時の国際情勢や学界の説明抜きで、多くの外国文化人の名前と共に体験が述べられるので、門外の者には必ずしも読みやすくはありませんが、女性の生涯に亘る研究続行が困難だった時代に、難関をつぎつぎ笑顔に変えて乗り越えて来た経験談は貴重なものです。かつて女子大で教える者同士でよく言い合ったことは、「女子は将来の道を単独では決められない。そのとき武器になるのは、けっきょく、語学力だ」ということでした。家庭を持ちながら自分の仕事もし遂げた女性は、語学を重視する大学を経ていることが多い、つまり語学力は基礎学力なのだ、夫の都合に合わせて自分の生活を選ばねばならない場合が来ても、語学力があれば道を切り開いていける、ということです。しかしこれは経験則でしかなく、教育理論ではないので、声を大きくして言うことができないもどかしさがありました。

現代では女性の選択はもっと幅広く、夫に合わせてどこへでも、というわけではないかもしれません。夫が妻の選択に合わせて道を選ぶ場合もあるでしょうが、男たちには、ひろく、人脈という武器がある。女性たちは自らが、応用の利く問題解決能力と発信能力を身につけている必要があるのです。語学力とは、外国語だけではありません、日本語、古文の能力も含まれます。