ドレスコード

父が生きていた頃は、毎年、彼の誕生日(1月)と父の日(6月)に、ネクタイを贈るのが習慣でした。冬にはウールのカジュアル、夏には麻の単衣物とか、時にはちょっと変わった色をとか、選ぶ方は変化をつけようとするのですが、仕事社会にはそれなりのルールがあったらしく、あまり変わったものを選ぶと、その場で礼は言うものの、けっきょく締めて貰えませんでした。

娘はどうしても父親にいつまでも若くあって欲しいので、派手な柄を選びがちです。ある日、父とその同僚と3人で会食した時、同僚が「随分若やかなネクタイしてますね」と冷やかし、父は「あ、今日はアフリカ使節団に会ったものだから」と言い訳しました。それは私が贈った、鮮やかな赤と青の濃淡の柄のネクタイでした。爾来、すこし地味めのものを選ぶように心がけました。

それゆえ私はけっこう、ネクタイにはうるさいのです。

お詫び会見のドレスコードってあるのでしょうか?黒のスーツに黒のネクタイで4人の男が揃って並べば、葬式に見えます。メンバーと訣別した、というメッセージを発信していたのでしょうか。スクールカラーとはいえピンクのネクタイは、お詫びに行くのにふさわしいでしょうか(大学のロゴ入りのタイには紺やグレーもあるらしい)。それとも、大学を代表して来たというメッセージだったのでしょうか。お詫びならしょげているはずで、どちらもその気配が感じられないのです。ドレスコードは、その場に相応した気配を形式に表したものでしょう。気配が無いのに服飾で代替はできない。

同じように、言葉だけで、無い気持ちを代替することはできません。責任はすべて私にあります、という言を、ここ数年、国会中継で何度聞いたことか。