木の葉髪

俳句に「木の葉髪」という季語があります。今頃から初冬にかけて、夏に傷んだ毛髪が生え替わるのか、抜毛が多くなります。木の葉も落ちる季節なのでそう言うらしい。

高校時代、いかにも文学少女(年齢的にはおばさんですが)ふうの国語教師が、授業中に生徒に作らせた俳句の優秀作を発表しました。私としては破調も古典風も含めてかなり自信作を出したのに取り上げられなかったので、評を訊きに行きました。すると、貴女の作はてんで駄目、強いて言えば「木の葉髪友の心の知れぬ日よ」がいいけど無季だから、との答えでした。

ある日、ふとした友人の言葉や仕草の意味が気になりながら鏡に向かって髪を梳く、あれこれ考えてもどこか腑に落ちない、抜けてくる毛髪と共に心に何かが引っかかったまま・・・という句意です。もともと歳時記で見つけて覚えた語です。この人は木の葉髪が季語だと知らない、ではどうしてこの句がましだと思ったんだろう、どう解釈したんだろう、という思いが押し寄せ、何も言わずに礼をして職員室を出ました。

自分が教師になってからも、この思い出はずっと心の奥にありました。自信満々で評価を下す人間の滑稽さーそういう眼をどこかで意識していたい、と思います。