茗荷

丸々太った茗荷が店に出ています。この頃はほぼ年中売っているようですが、やはり晩夏から秋にかけてのものでしょう。縦に2つ割りにし、細く刻んで酢水にさらしておくと2,3日は保ちます。そのまま鰹節醤油で、またはシラス、貝割れ、胡瓜もみなどと混ぜ、中華ドレッシングで和えれば小鉢が1品できます。酢飯に混ぜたり、丸ごと天麩羅にした後甘酢に漬け込んでマリネにしても美味しい。冷や奴や素麺の薬味にも最適。

子供の頃は嫌いでした。暗い、湿った所に生えているのも好きになれなかった理由です。大人たちは、茗荷を食べると物忘れするようになる、と言って、子供には無理に食べさせませんでした。釈迦だったか孔子だったかの弟子の中に、忘れっぽい者が1人いて、その墓に生えた植物だと聞かされたような記憶があります。

ふと気がつくと、いつからか、野菜の味そのものを食べる習慣がついていました。生か、茹でたくらいで、味付けもなるべく単純に。例えばオニオンスライスや紫キャベツの千切りを塩もみしたものを冷蔵庫に蓄えておき、レモン醤油とかマヨネーズとか単純な調味料を加えるだけで、仕事の切りがつくのが遅くなっても、とりあえずの酒肴は整います。しかし―料理の腕は上がらず、これではわざわざお客を招ぶようなことはできないですね。私としては、器と酒さえ選べば、豊かな気分になれるのですが。