人参

小説や物語に出て来た食物が美味しそうに思えるのは誰しも経験があるのではないでしょうか。父親玄海育ちのくせに生臭い魚が大嫌いで、箸もつけませんでしたが、なぜか伊豆のくさやは好物。矛盾しているじゃないかと追及したところ、横光利一の「日輪」を読んでから好きになった、と言っていました。

ロシアの長編小説を読むと、ザクースカ(漬け物のようなもの)とかクワス(コーラに似た飲料)とか、美味しそうですよね。

子供の頃、鼠の一家を描いた漫画本がありました。お弁当に人参を持ってピクニックに行く話があり、各自1本ずつ人参を(ちょうどソフトクリームを持つように)持って美味しそうに食べている場面がありました。今どきの人参は甘くて臭みも薄く、生でも食べられそうですが、当時は煮しめて食べるものでした。いちど味わってみたいと、台所の流しの下にしまってある人参を狙って、夜中にこっそり、がぶり!忽ち口中はアクのきつい臭味でいっぱいになりました。

翌朝、台所では「鼠が出た!人参が囓られている」(当時は、夜中に天井裏を鼠が走り回ることは日常茶飯事でした)と騒いでいましたが、勿論、知らぬ顔で遊びに出かけました。