前田雅之さんの『保田与重郎 近代・古典・日本』(勉誠出版)という本が出ました。2010~2016年に雑誌連載した評論をまとめたもので、保田の30歳までの活動を取り上げています。序章「なぜいま保田与重郎か」と第三章の一部「木曽冠者と大衆」、第五章「後鳥羽院」を中心に読みました。橋川文三、川村二郎、ユリイカ、日本浪漫派など、私も若き日に触れたなつかしい名前の中を泳ぎ抜けながら、前田さんのバイタリティに(いつもながら)圧倒されました。
私自身は、保田の論理性抜き感情過多の文体とは肌が合わず、あまり多く読んでいないのですが、なぜか中世文学は、そのファンから思想的に歪曲利用されがちなところがあって、殊に今日のような、一つ間違えば「いつか来た道」に迷い込みかねない情況の下では、勇を奮ってこのような評論に取り組む人が奇特です。
6年間に及ぶ連載の間には、前田さんの意識にも変化があったことでしょう。第五章では後鳥羽院を敬愛する保田の文章に、しだいに著者自身が近づいていくような感があって、いささかほほえましくもあり、ぜひ30代以降の時期についても書き継いで欲しいと思いました。また、丸谷才一に保田がどう影響したのかも、知りたい気がします。