みすずかる

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1泊2日で、30年来の旧友の故郷を訪ねました。みすずかる信濃の松代です。林檎の花を見たい、と頼んで連れて行って貰いました。蕾の外側はぽっと紅色を帯び、開いた花は純白です。山の斜面一面が林檎畑で白くかすんで見え、雪国の春は遅い桜や花桃や水木、牡丹、躑躅、山吹、藤、水仙、蒲公英、菜の花、鈴蘭、紫蘭その他、木も花も一斉に咲き乱れて、山肌は濃淡の緑に染め分けられ、自分の身体も色とりどりに染まりそうでした。

友人もその家族も、林檎の花をしみじみ見たことはない(あまりに身近かすぎて、わざわざ見るものではない)そうで、一緒に綺麗だねえと感動してくれました。

小布施で十割蕎麦を食べました。甘みがあって、思わず山盛り平らげてしまいました。北斎館と岩松院で葛飾北斎の展示を観ました。小布施は栗の産地、歩道には栗材のチップが敷き詰められ、巨木の多い、散策に向いた静かな町です。

夕食は松代の山菜を活かした創作料理で、お互いの健康に乾杯しました。料亭の床の間には真田信之を真中にその父・弟の肖像が掛けてあり、女将が滔々と説明してくれました。

投宿した信州松代ロイヤルホテルにはかつて資料調査で何度も来たのですが、その時の同行者の中にはすでに故人になった人もあり、あちこちで懐旧の情に囚われました。

2日目の今日は、松代見物。海津城趾や真田邸、山寺常山邸、象山地下壕、象山神社などを案内して貰いました。春秋の地元の祭には、真田家の御当主が馬上ゆたかに練り歩き、今も「殿!」という呼び声がかかるそうです。どこも新緑が美しく、鶯がボイストレーナーにしたいくらいくっきりと鳴いていました。そこここに友人の幼年時代の腕白ぶりの逸話があり、地元のボランティア活動の様子も知ることができ、ふるさとのある人はいいなあ(東京育ちには、こういうふるさとはない)と思いました。

昼食は辛み大根のおろし汁に饂飩を入れて食べる「おしぼり」という料理で、涙が出るほどの辛さでした。杏おこわという、ちょっと甘酸っぱい炊き込み御飯が美味しくて、かりかり梅か南高梅で代用して作って見ようかなと思っています。

長野駅の売店で、おやきと軽井沢ビールを買い込みました。列車が上田を通過するとき、山の上に十五夜の月が出ました。