絵本

磯水絵・小井土守敏・小山聡子さんの『武士が活躍し始めた、その頃のお話。』という長い題の絵本が出ました(創英社発行 三省堂書店発売 二松学舎大学の絵本)。二松学舎大学附属図書館が所蔵する奈良絵本『保元物語平治物語』(12巻12帖)を素材に、「鎮西八郎物語」(小井土守敏)、「悪源太義平物語」(小山聡子)、「ときわ御前物語」(磯水絵)の3つの物語に仕立て、絵を大きく拡大して絵本に作っています。

奈良絵本とは、室町時代から江戸時代前期(16~17世紀)に、大名や有力商人などからの注文で作られた豪華な絵本・絵巻のことをいいます。富裕階級の娯楽品として日本では美術的・文学史的な評価が遅れ、海外へ流失したものも多く、近年、ようやく研究調査が盛んになってきました。今となっては超のつく貴重品ですので、私たちも調査閲覧する時はたいへん緊張するのですが、こうして子供向けの絵本にしてみると、意外にしっくり来ます。本来そういう楽しみ方をされるものだったからでしょうか。

中世の幕を開けたとされる保元の乱、源平決戦を招く因となった平治の乱、それを扱った軍記物語が『保元物語』『平治物語』ですが、『平家物語』とはまた異なった面白さ、悲しさ、哀れさがあります。剛弓を使いこなす豪傑八郎為朝、のし上がる平家と対峙して敗れ去っていく源義朝と長男義平、そして悲劇の母常磐御前、特徴的な人物を選び出して構成したのは優れたアイディアですが、読み聞かせる大人が流布本『保元物語』『平治物語』を脇に置いて、全体の筋や絵を説明してやるのもいいかもしれません。歴史的時代としても面白い時代です。

手書きで描かれた原本の絵本はもっと美しく、当時の暗い灯影で開いた時に絵が浮かび上がるような工夫も凝らされています。二松学舎で展示される機会には、ぜひ一見をお奨めします。