虚像を剥ぐ

曽我良成さんの新著『物語がつくった驕れる平家』を読みました。平家物語は永く日本人の中世史観に影響してきて、我々は今なおいくつもの思い込みに囲い込まれている、との指摘は重要なものです。貴族の漢文日記を読み解きながら、「平家に非ずんば人に非ず」という発言の意味、清盛が都に放ったというスパイ「禿童」の有無、殿下乗合事件の真相、安元3年頃の政界人事権は誰にあったか、安元白山事件の本質等々を考察していますが、本題は殿下乗合事件で、物語が清盛を悪人化するために重盛を美化しているとしてきた通説は誤り、とつよく主張しています。

平家物語は文学であって歴史記録ではない、という視点をキープすることには大いに同調したいと思います。しかし文学研究者はそこからが出発なので、虚像を剥いで、さて何を追っかけるか、立ち止まってはいられません。