2017-01-01から1年間の記事一覧

紫煙

かつては父親が日曜日に油絵を描きながらふかす煙草の煙は、なつかしいものでした。しかし喫煙の深刻な健康被害が言われるようになり、彼はあっさり煙草をやめました。私も高校教諭になってすぐ教務主任になり、会議で意見が出尽くすまで黙っていなければな…

過去のある世界

ようやくカズオ・イシグロの本が店頭山積みになったので、『遠い山なみの光』、『浮世の画家』、『夜想曲集』を買って読みました。初めの2冊は戦後の日本(主に長崎)が舞台です。作者自身が言っているとおり、川端康成と小津安二郎の雰囲気が漂っています…

数値

複数の大手企業で検査の手抜きや数値の詐称が頻発し、「もの作り日本」のプライドをずたずたにしています。何故こんなことになったのか、何故永年続いてきたのか。異分野でも、疑問に思い、腹立たしく感じている人は多いのではないでしょうか。 恐らく最初は…

小さき生きものたち

中村桂子さんの『小さき生きものたちの国で』(青土社)を取り寄せて読みました。中村さんは生命誌研究というジャンルを唱えて、いわゆる生命科学に時間を導入し、「機械論的世界観」から「生命論的世界観」への転換が必要だと主張している科学者です。かつ…

逆転

高校教諭をしているかつての教え子から、手紙と一緒に先々週の日文協大会のレポートが送られてきました。国語教育部会に参加した出張報告として作成したから、とのことでした。教員養成系大学の国語科教育法担当教員の参加が少なくて寂しく感じた、と手紙に…

琵琶とシルクロード

文京区役所の小ホールへ、薦田治子さん司会の「日本の響き、世界の調べ―琵琶とシルクロード」(東京2020応援プログラム)を聴きに行きました。リュート系の弦楽器を聞き比べようという催しです。平家琵琶、ウード、中国琵琶、リュート、薩摩琵琶の演奏が…

此花開後

去年は菊の花が不作でしたが、今秋は2年越しにしっかり伸びた茎に、たくさん花がつきました。小菊ばかり、あちこちから1枝ずつ失敬してきて挿木で増やしたので、咲いてみないとどんな花なのか分かりません。嵯峨菊は挿して1年目しか咲きませんでしたが、…

ロゼット

辞書で言葉を覚えることがあります。芥川龍之介は辞書に「みつせ川」という語を見つけた時、美しい言葉だなあ、と、うっとりしていたという思い出話を読んだことがあります(私もその時、この語を覚えました)が、子供の頃、植物図鑑の用語集で「ロゼット」…

食生活変更

注文しておいた本を受取りに出かけました。まず重すぎて着られなくなったオーバーコートを区役所のリサイクル籠に投げ入れ、食材の買い出しに大手スーパーへ。最近胃腸の具合がよくないので、食生活を大幅に変えることにしたのですが、つい、酒肴になりそう…

叱られ上手

流通・サービス業を中心とする労働組合連盟が、政府にクレーマー対策を講じるよう申し入れた、というニュースに違和感を持ちました。何でもかんでも「お上」に解決を求める風潮は、私たち自身の足元を危うくします。 たしかに、しつこく相手の弱みにつけこん…

まだあきらめない

リポート笠間63号が届きました。まず第二特集の「古典のひらきかた―まだまだ、あきらめない!」から読みました。石井倫子さんの「古典ガールの底力―古典で遊び、発信すること」、須永哲夫さんの「助動詞擬人化始めました~」、森田貴之さんの「古典で日常…

軍記・語り物研究会415例会

軍記・語り物研究会の例会に出ました。発表は、井上翠「『源平盛衰記』の巴の物語」と粂汐里「絵画化された説経・古浄瑠璃作品について」の2本です。 井上さんの発表は源平盛衰記を作品として読もうという試みの一環で、丁寧に盛衰記の本文を辿っていきまし…

シートベルト

タクシーに乗ってつらいのは、左斜めに掛けるシートベルトです。まず差し込み口が座席の中に埋もれていてなかなか見つからず、見つかっても、体をねじりながらでは差し込みにくい。体格のいい男性ならちょうど良いのかも知れませんが、座高の低い私はちょう…

現場事情

東京出張のついでに、と言って鳥取から教え子がやってきました。今や50代半ばの高校教諭です。鳥取県警はいまたいへんだね、という話から始まり、この冬は雪が多そうだということ、駅前の政治家の銅像のこと、豪華列車の停車駅のこと、かつてのゼミ生の消…

雪支度

北国の公園では植木の雪吊りが始まっているでしょう。鳥取では市内を流れる千代川に白鳥が飛来する頃、道路脇には山のように袋が積まれ、赤白だんだらの細いポールが立ちました。道路工事が始まるわけでもないのに何だろう?と思ったら、除雪車が雪に埋もれ…

藍鉄塩釉鎬

濱田友緒さんの展示会で買ったマグカップが届きました。藍鉄塩秞鎬です。まずは益子焼愛好家だった亡父の仏前に上げて、よくよく見せてから、鍋に水を入れて煮沸しました。陶器の使い始めにはこうするものと教えられていたのですが、ある時、清水土産のドミ…

歯医者さんから褒められる

口腔ケアで歯医者へ行きました。口の辛い歯科衛生士に叱りつけられながら3年、次々に注文がつき、一時はどうなるかと(歯だけ生き残ってもしょうがないよなあ、と思ったり)心配しましたが、ようやくこの頃、歯磨きは一部を除きOK、良質の歯茎なので出血し…

観菊

来日中のJ.ピジョーさん(中世日本文学に詳しいフランス人です)と待ち合わせしました。ピジョーさんの日本での楽しみは、日本酒と水泳。まず蕎麦屋へ入って、燗酒を銀杏で呑みました。明日は房総の海で泳ぐ予定だそうです。心配する私に、欧州人は日本人よ…

文法の授業

古典文法の授業に苦労している先生方は多いと思います。大学の教養科目や文学部の初期科目の場合、私は(よい教師だったかどうか分かりませんが)、こんな風にしていました。 まず、古典語と現代語の間には1000年近い時間があり、同じ日本語だからそのま…

歴史叙述と文学

国文学研究資料館の平成二十八年度共同研究成果報告書『歴史叙述と文学』(代表福田景道)所収の論文3編を読みました。大橋直義「伝記への執心」、清水由美子「『平家物語』における多田行綱」、福田景道「『増鏡』と『梅松論』の歴史性と文学性」の3編(副…

無辺光

大谷節子さんが京都の観世流シテ方片山幽雪(1930-2015)から聞き書きした『無辺光 片山幽雪聞書』(岩波書店)を読みました。聞き書きだから、と気楽に読み始めたのですが、中身はぎっしり重く詰まった本でした。前半は幽雪の自叙伝、後半は能35…

基準変更

昨日は早起きして大学病院へ検査結果を聞きに行きました。眼科の女性医師は、カルテを読まずに見当違いのことばかり言う(緑内障云々と言われた時は仰天しました。高齢者にはつきもの、との先入観があるらしい)ので、次回の定期検診の予約だけしてそそくさ…

秋の薔薇

午後の診察予約だったのを忘れて、いつもの時間に大学病院に行ってしまいました。未だ4時間もあります。一旦帰ってもよかったのですが、近くに薔薇で有名な給水公苑があるのを思い出し、読むものはたっぷり持って行っていたので、缶コーヒーを買って浄水場の…

墓参

御殿場の富士霊園へ墓参に出かけました。タクシーを借り切って、古くからの友人に同乗して貰っての往復です。墓参日和とでも言いたいような好天で、雪の無い富士山がどっかりとよく見えました。連休明けなので霊園内には殆ど人影がなく、線香が燃え尽きるま…

知られざる傑作

学部時代、俳諧が御専門の井本農一先生に習いました。最初の専門科目は2年の演習でしたが、穏やかな口調ながら執拗に、学生の思い込みを追い詰める授業で、上級生の中には泣き出した人もいる、という噂でした。辞書にあった、は禁句。「辞書も人間が作ったも…

中世の随筆

ツンドクの山を、随筆文学の峯から崩すことにしました。まずは荒木浩編『中世の随筆―成立・展開と文体―』(竹林舎 2014)。随筆文学は最初にジャンルの定義にこだわらざるを得ないようで(軍記物語でも名称にこだわる人たちもありますが)、もともと作者…

憲法を

大学で教員免許を取るためには、憲法の講義を受講することが必須になっています。ここ十数年、各大学から推薦される大学院生の成績証明書に目を通す機会があるのですが、深刻な衝撃を受けたのは、優秀な成績なのに憲法の単位の評価が著しく悪い、という例が…

源平の人々に出会う旅 第11回「奈良市・奈良炎上」

治承4年(1180年)12月、清盛は敵対する南都の大衆(奈良の僧侶)を抑えるため、重衡を派遣し南都を焼討ちしてしまいます。『源平盛衰記』には興福寺・東大寺の伽藍の由来がより詳細に記されています。 【猿沢の池】 最初に鎮圧のため派遣された妹尾兼康は、…

検査後の一日

消化器の検査が続いたので、3日ぶりに朝食を摂りました。朝食はネクタリンジャムを入れたヨーグルト、果物、フランスパンとソーセージ、トマトスープ、それに珈琲。胃腸の具合が気になり出してからは、起き抜けに冷たい牛乳を飲みながらメールチェックをす…

s字理論T字理論

私たちの世代では定年まで勤める女性は少数派だったので、勤めおおせる女性のタイプをひそかに観察し、その結果3つの類型がある、という仮説に達しました。①女王タイプ ②童女タイプ ③お母さんタイプの3つです。男性の中に1人だけの女性、という場合にはだ…