太平記秘伝理尽鈔

久々に『太平記秘伝理尽鈔』が出ました(平凡社東洋文庫)。全10巻の中の5冊目です。本書は今井正之助・加美宏・長坂成行3氏の共著として、2002年12月から刊行され始めたのですが、2010年に加美さんが亡くなり、4が出たのは2007年でしたが、じつに13年目にして続刊されたことになります。全584頁、最後に110頁に亘る、今井正之助さんによる解説2本が載っています。

太平記』や『平家物語』に、兵法・儒教その他の思想で独自の解釈をつけ、論評する書物(一種の注釈書。「評判」とも言う)が中世末期から近世に作られ、出版されました。大部なものもあり、内容は、現代の我々の目から見ると牽強付会にしか思えませんが、近世以降、『太平記』本体よりもこれらの評判書を通じて南北朝の内乱が論じられることさえあって、日本人の「太平記観」形成を知るには欠かせない書です。

とはいえ、量的にもその論調からも、私などには読み通すことすら忍耐力が必要で、全巻に注釈をつけ、その思想や影響を論じる気力・体力には、頭を垂れるしかありません。本書に載る今井さんの解説は、「『理尽鈔』の神道論覚書ー国常立尊を手がかりにして」と、「『理尽鈔』と男色」の2本。前者は神道書や注釈文芸などの膨大な資料と『理尽鈔』を比較しながら、『理尽鈔』は神仏の存在そのものは認めていないが、道の乱れを防ぐためにあからさまには言うなと考えていると説く、立体的な論。2本目は、弘法大師日本男色開祖説の由来を探求したものです。

今井さんには、『『太平記秘伝理尽鈔』研究』(汲古書院 2012)という大著(上から落ちてきたら即死は免れない、堅牢で重量感のある本です)があり、『理尽鈔』のすべてを捕捉する所存らしい。完結まで、くれぐれもお大事に。