チューリップ

子供の頃、チューリップの名所とは、絵本で見る日比谷公園でした。どんな所だろう、とずっと憧れていました。一方で、♪咲いた咲いたで始まる単純なメロディと、図式化されやすい花の形は、大人らしくない、気恥ずかしいイメージもありました。

初めて行ってみた日比谷公園は、チューリップ花壇など少しも目立たない大きな公園でした。その後は、この花の名所は富山県の砺波か、鳥取県砂丘研究所だと思い込み、鳥取へ赴任した際は楽しみにしていたのですが、実際に見たのは畑に数列並んだ花だけでした。乾燥地の特産品を作り出すための試験栽培だからです(砂丘ではなく、沿道にこの花が咲き乱れるチューリップマラソンという催しが、日吉津村にあります)。宇都宮では、大学構内に農学部の圃場があって、原生種が栽培されているのを初めて見ました。素朴な野の花が、点々と星のように咲いているトルコの原野を想像しました。

その少し前から、輸入された外国種の、多様なチューリップが店に出るようになりました。農業高校のかつての同僚が定年になったと聞いた時、お祝いの花束は何がいいか悩んだ末、ご自分では育てない花を、とオランダ産のチューリップを注文しました。花の専門家だからね、笑われないように選んでよ、と花屋に念を押しました。

コロナ自粛の徹底のため、千葉県佐倉市の公園では、いま盛りのチューリップ80万本の花茎を、農業用トラクターで刈り捨てたそうです。無残な・・・しかし輸出用球根の産地では、球根の栄養を確保するため、花が咲くと首から摘み取ってしまいます。その花弁を集めて路上に絵を描くイベントもあります。心配なのは、公園では季節が過ぎるとさっさと掘り起こし、処分してしまうのではないか。どうか、そのまま栄養と病害予防だけ施して、葉が枯れるまで待ってやって下さい。来年の球根のために。