次世代に伝えたい古典

武蔵野書院から『次世代に伝えたい新しい古典』(井上次夫・高木史人・東原伸明・山下太郎編)という本が出ました。『古事記』から長塚節まで、18人の執筆者が20枚前後の分量で、各作品の読みどころを、最新の視点で照射しています。

読者対象は中等教育の教員や卒論目前の学生が主でしょうか。かつて『ともに読む古典ー中世文学編』(笠間書院 2017)を出した際、姉妹編がどんどん出てくれるといいなと思っていたのですが、さらに範囲の広い企画のようです。

蔦尾和宏さんの「『古事談』ー抄録の文芸ー」は、益田勝実さん初め先学の読みを踏まえながら、小さな改変を通じて自己の主張を打ち出す説話文学の方法と、11世紀に生きた一徹な男の風貌とを浮き彫りにしています。かつて私も『古事談』を教材にし、現代人を手こずらせる、そのわかりにくさ(寡黙)こそがこの作品の魅力でもあると思いました。

伊達舞さんの「『とりかへばや物語』」と、津島知明さんの「『枕草子』「したり顔」の呪縛を乗り越えて」も、旧来の固定観念を打破して作品の魅力を衝いた好論。前者は当代風のLGBTQに触れながら、しかしこの物語では「家を背負う」という要素が重要であることを指摘。私は「人は他者との関係によって自らの役割を認知した時、初めて自立する」が本作品のテーマだと読んでいます。塩村耕さん「新しい古典としての西鶴」では、近世は咄上手の時代なんだなあと思いました。本宮洋幸さんの「『うつほ物語』の軌跡」では、半世紀前(未だ本文も確定していなかった時期です)、この長編物語に惹かれながらも立ち往生した謎の重層が、ぱらりと解けた気がしました。

一つ、版元へ注文ー各項目の長さも分かりやすさもちょうどよく、手に持ったまま読みたい(電車の中や陽だまりの長椅子で)本なのに、紙が良すぎて重すぎます。