風月同天

「山川異域 風月同天」という詩句を救援物資のラベルに書き添えて、湖北省の高校に送った日本青少年育成協議会の快挙が話題になっています。中国語検定試験などを行っている団体なのだそうで、調べてみると、以前から、この団体主催のイベントのポスターなどにも印刷していたらしい。殆ど社是のようなものだったのかもしれませんが、今の状況でこのように使われると、まさに衝撃力は大です。

短い詩句であること、単刀直入にラベルの隅に(発信人名のように)印刷されていたことも、印象を強めた理由でしょう。漢字は1字1語ですが、その中に意味が凝縮されていて、直撃力が半端でない。和漢混淆文の代表とされる『平家物語』の文体の妙味は、漢語と歌語、日付や数字・人名などの記録語の配置にあると、私は思っています。

高校の漢文の授業が退屈だったので真面目に勉強せず、漢文には何となく苦手意識があるのですが、それでも不意に、「二千里外故人の心」とか「水村山郭酒旗の風」とか、風物に応じて口中に飛び出してくることがあります。何故か和歌よりも詩の一節であることが多い(和歌を専門にしている人は逆かもしれませんが)。『和漢朗詠集』を仕事でなく読書として読むと、印象に残るのはやはり漢詩の1節で、和歌はオプションのような気がしてしまいます。

上記の詩句は、そのまま現在の彼国の人々へのメッセージになっていますが、じつはその背後に1300年も前、長屋王の要請に応えて命を賭けて渡日した鑑真和上の逸話が控えていて、そのことを想うと、彼我の長い歴史の重みがさらに迫ってきます。これが古典だ!と思うと同時に、ふと彼国では、誰もがこの詩句を読めるような古典教育が普及しているのだろうかとも思ったことでした。