軍記・語り物研究会424

軍記・語り物研究会例会に出ました。久しぶりに早稲田大学へ入ってみたら、キャンパスは綺麗に整備されていて(しかし部外者にはまるでわかりにくい)、あの寅さんがたむろする学生に話しかけた辺りも、コンクリートで塗り固められていました。

参加者は二十数名、発表は2本。梶川貴子さんは日本史が専門のようで、「得宗被官と承久の乱」と題し、北条泰時承久の乱で上洛する際に伴った18騎の御家人が、北条氏嫡流を支える被官となっていった過程を、『吾妻鏡』の記事から追究しました。要領よくまとめられ、分かりやすい。ただ『承久記』も『吾妻鏡』もあくまでも史料として扱ったので、会場からの質疑応答とは紙1枚間に挟まった感があって、噛み合いませんでした。

清水由美子さんの「『平家物語』と『吾妻鏡』の関係について」は、まず両者の関係についての先行研究をざっと見渡した上で、共通資料に基づくものとの見通しを立て、頼朝洲崎明神参詣記事、千手前関連記事、壇ノ浦合戦奇瑞記事、行家記事を事例として両者を対照、考察したもの。未だ結論まではかなりの階梯がありそうで、問題の大きさにめげずに進んで欲しいと思います。

文学研究の眼で見ると『吾妻鏡』は、箇所によっては史料というより、ある種の物語だと言いたいほど、巧みな語り口を持っています。意図的な構成も窺えます。そしてその脚色の質は全巻一様ではない。単に鎌倉幕府の実録とみなしていいものかどうか、疑問を抱きつつ参照・引用しているのが実状です。清水さんの課題は簡単に独力で完結するものではなく、今後、広がりと深まりの中でテーマを再編成、解決されるべきでしょう。

行きには路傍に蕗の薹を発見。早大キャンパスでは、桜の梢に蕾が丸々太って、夕日に輝き始めていました。