源頼政

永井晋さんの『源頼政木曽義仲』(中公新書 2015)を読んでいます。平氏源頼朝に逐われるきっかけになった以仁王の乱については、平家物語源頼政が発起人だったかのように語っていますが、その真相は不明でした。清盛からはほどほどに引き立てられつつ、70歳にもなって何故こんな危ない賭けに出たのか。以仁王側の理由を挙げる説が近年有力になりつつありましたが、永井さんは熊野新宮合戦が思わぬ結果を招く過程をきれいに説明しています(もととなった論考は「以仁王事件の諸段階」鎌倉遺文研究36号 2015/10)。

頼政とその一族は、平家物語を読み解く上でもっと注目されていいと思います。さらに言えば、時代や事件のキーマンになりそうな人物の周辺を、和歌史からも説話文学の方からも、そして日本史からも総合的に見ていくことが、これからの軍記物語研究にとって必要だと考えます。

中村文さんはいま、和歌史の方から頼政を語れる第一人者。花鳥社の公式サイトに、「頼政の恋歌一首」と題して、『頼政集』の本文批判や、東国と頼政の和歌との関連について書いています。https://kachosha.com

保元物語平治物語平家物語をつなぐ時期、平氏が権力を獲得・拡張していく、つまり頼政の生きた時期は物語としても面白いはずだった、それなのに軍記物語にはあまり語られていません。ある時代、ある事件を描くのには、さまざまな視点があったはず。なぜこの作品は、この人物を、こう描いたか。そう考えるのは有益でもあり、楽しくもあります。いきなり作者名やその生活圏に結びつけることはせず、いろいろな角度から物語の成立を見直してみたいのです。