鵺の正体

母校の中世文学研究会に出かけました。今年度は院生の入学が1名だけだったそうで、今後は年2回の開催とのことでしたが、今日は20人程度の参加者がありました。発表は2本。1本目は岡本光加里さんの「『千五百番歌合』における先行作品摂取と同時代歌人間の関係」ですが、10月の中世文学会の下発表なので、本番に期待します。

2本目は沖本幸子さんの「ヌエ考―怪鳥の声をめぐって―」。鵺は世阿弥作の能でも有名ですが、平家物語では源頼政(射撃の名人)の武勇談として語られています。同様の話(退治される化物が少し違う)が長門本源平盛衰記には、清盛の武勇談として語られており、なぜ併存するのかは未解明でした。そもそも正体が何なのか、よくわからない(つかみどころのない存在を、ヌエみたい、と現代でも言います)のですが、注釈書類が挙げているトラツグミ説(貝原益軒大和本草』など)のほかに、ムササビかモモンガではないかとする説があり、中世ではその方が相応しいのではないかという話でした。

面白かった。本人が実際に聞いた鳴き声や百科事典の音声を聞かせながら、元来中国では夜行性の鳥を「怪鳥」と言ったこと、万葉歌ではトラツグミの声がよく当てはまること、『殿暦』『吾妻鏡』には夜中に院御所や内裏、頼朝邸で鵺の声を聞き、読経や陰陽道の祀りをしていること、『看聞日記』の応永23年(1416)4月25日条には北野社に現れた怪鳥の記事があること、それらの記述の特徴はムササビに当てはまることなどを、分かりやすく述べました。殊に私が興味をそそられたのは、長門本源平盛衰記が清盛の怪鳥退治として語る説話がこれによく当てはまることで、頼政の鵺退治説話との先後などいろいろな方向に想像が広がります。

賑やかに呑んで街へ出たら、雨が降り始め、濡れて帰りましたが、楽しい一晩でした。