ひも

最近、やたらに「ひもとく」という語を使いたがる風潮が気になっています。もともとは、本を読む、本の頁を開く、といった意味(文語)でしょう。和装本の帙の紐をほどいて本を開く意、もしくは巻子本の緒を解いて開く意だったと説明されています。ですから目的語は本、せいぜい文献の類であるのが自然ですが、この頃は参照する、調べる、はては問題を掘り下げるといった意味にも使われる。ちょっと気取って、高級感を出すつもりかもしれないが、読む方は身体のどこかがむずがゆい。国文学研究者までが誤用し始めていて、焦燥に駆られます。

漢字では「繙く」というれっきとした1字があるにも拘わらず、ワープロで打つと「紐解く」と出てしまうので、こちらの方が主流になってきました。中古文学を学ぶ学生には、「紐解くと書くと、だらしなく見えるぞ」と教えてきたのですが・・・

いっぽうで「ひもづける」という語が学術的な文章に顔を出すこともあって、なんだこれは!関連づける、結びつける、という意味の、IT業界の用語だった(2003年頃が初出?)のが、じわじわと広がってきたらしい。紐付けと言えばもとは和裁の用語でもありましたが、さらに「ひもづく」という自動詞までできたようです。「ひもがつく」という言葉は、どうも上品な感じがしないし、業界用語をやたらに一般化したくないのは、私だけでしょうか。「関連させる」という語では、どうしていけませんか。

ちなみに「ひも」というと吉行淳之介を連想してしまうのは、私の偏見でしょうね。