つしま

歯医者に出かけました。夕立の来る前に、と早めに出て、本屋に寄りました。本屋に入って手ぶらで出て来られないのが、我が家の家風。あちこちの棚から本が目配せしているような錯覚に囚われます。当分、日本史と国文学の本は読みきれないほどの山があるのだから、と見ぬふりをし、新書や文庫も新刊の陳列だけを見ることにしたのですが、店を出る時には4冊が手提げに入っていました。

そのうちの1冊は、『俺、つしま』(おぷうのきょうだい 小学館 2018)。猫本の中でも人気本だとは知っていたのですが、今までは手に取る気もありませんでした。このところ、細かな作業や人の橋渡しをする仕事で煮詰まっていたせいか、表紙がぐいっと迫ってくる感じがして、思わず買ってしまいました。

ユニークな漫画です。猫の細かな表情が絶妙に描かれている。あくまで猫目線で、飼い主は性別も曖昧なゾンビのように描かれ、ユーモラスだが主張がある。漫画はこのくらいのデフォルメ、現実との距離感がなくてはと思います。

幼年時代、猫は半野良で飼うものでした。数軒の家を気ままに渡り歩き、台所口に残飯を出しておくといつの間にか食べていく。家には上げません。猫の方も、撫でさせはするが向こうから甘えては来ない。ときどき、一宿一飯の御礼のつもりか、鼠を咥えて見せに来ました。追い回して取り上げようとすると怒る。見せびらかすように、口元に鼠をぶら下げて歩き回るので、閉口しました。この本の描く猫の行動は、みんな見知っていたものばかりのような気がします。

続編が出ているようですが、こういう本は1冊でいい。歯医者で口じゅう引っかき回されている間も、帰ったらゆっくりあの漫画を読める、と我慢することができました。