紳士靴

昨日今日、近世文学会が開かれ、これで今年上半期の国文関係の学会は一通り終わります。昨日、近世の懇親会場で鞄を取り違えられた本屋さんが、ツイッター周章狼狽していました。近世の懇親会はかつては樽割りで始まるので有名、酒豪揃いが徹底的に呑む懇親会なので、さもありなんと思いました。

5,60年前の学会翌日は、傘や靴の取り違えの後始末で、研究室助手は大変だった、と先輩から聞かされたことがあります。当時の紳士靴はどれもまったく同じようで、脱ぐ時に手持ちのリーフレットなどを目印に差し込んでおく人もありました。老舗の料理屋には、一目で客の履物を覚える、伝説の下足番がいたりした時代です。

恩師の市古貞次先生は助手時代、久松潜一先生が宴会から帰られる時、玄関で決まって「市古君、僕の靴どれかな」とお訊きになり、内心、そんなこと分かるか、と思いながら、「さあ、どれでしょう」と言っていると、久松先生が「あれかな」と仰言る。「あれでしょう」とお答えすると、その靴を履いてお帰りになるのがいつものことだった、と回顧談をされていました。

本屋さんの鞄はぶじ見つかったようです。めでたしめでたし。