女学生の教養誌

『女学生とジェンダー 女性教養誌『むらさき』を鏡として』(今井久代・中野貴文・和田博文編 笠間書院)という本が出ました。450頁を超え、執筆者は近代文学研究者を中心に30名を超えています。1934年から戦時中の一時中断を経て現在も発行されている雑誌「むらさき」を軸に、近代日本の女子高等教育の歴史を検証する企画で、編者3人が勤務する東京女子大学100周年に沿う結果になったとのこと。

紫式部学会発行の雑誌「むらさき」といえば、岩佐美代子さんや故三角洋一さんが活躍している場、という程度の認識しかなかったのですが、本書を読む内に、間接的に縁のあった人名や大学名が網目のようにつながって、日本近代の女子大学史に出会ったことになり、蒙を啓かれました。内容はⅠ座談会「女学生とジェンダー1934-1944」、Ⅱ1930年代後半~40年代前半の女性―性、Ⅲモダン都市の女子高等教育機関、Ⅳジェンダーモダニズム・生活、Ⅴ教養としての古典、Ⅵ表象としての女性、Ⅶ資料編という構成になっており、Ⅲでは著名な女子大の歴史、Ⅵでは今井邦子や与謝野晶子など時代の旗手となった女性8名の略伝が取り上げられています。

全体に女学生の近代史と、近代源氏物語享受史とが2本の柱となっているように感じます。近代日本の始発から大戦の時代への女子教育を振り返ると共に、政治に利用されていく古典教育の軌跡をたどることができます。女子大卒でない、戦争を体験していない編者たちの発言にときどき違和感を感じ、過去についての新たな物語が創出されていく過程を危ぶむ気もないわけではありませんが、有益な企画であることは間違いない。

亡母は東京女子大の英文を1933年に出ました。我が家には秘めた安井てつ伝説があり、信念の教育者として尊敬されています。