品格

一時期、「◯◯の品格」という本が流行ったことがありました。それに倣えば「本屋の品格」とでも言えばいいのでしょうか。さる版元のHPに「お詫び」頁ができ、ある著者の実売部数を公表したことを謝罪しています。ネット上は騒がしいようですが、何かずらされてる―いけなかったのは、実売部数が少ない著者はもの言う資格がない、と言わんばかりの強圧的な、揶揄的な社長のツイッターです。延いてはメディアは俺が持ってる、売れない本を出してやったんだから文句を言うな、という態度がちらついたことでしょう。

出版も生業である以上、売り上げが問題になることは仕方がないが、いい本ならば(世に出そうといちどは思ったのならば)、それをどうやって多くの人の手に取って貰える本にするかが、版元の仕事です。そのために編集者が打ち合わせもしたはず。出してやるが売れなきゃ知らねえよ、というのなら、大の男(べつに性別は関係ないけど)の甲斐性はどこにあるのか。やり手の社長は初心を忘れた。

しかし、これほどひどくはなくとも、こういう種類の恩着せがましさや責任逃れを匂わせられることはあります。あるいは、こういう考え違いの裏返しで、売れさえすれば誤りや誇大表現を満載した「学術書」を派手に出すジャーナリズムもあり、堅気の研究者がその尻ぬぐいに逐われるはめになるのは、腹立たしい。ふと救われたのは、本を売るのはぼくの責任、ぼくはこの社のたった1人の営業なんだから(「帰ってきた炎の営業日誌」)というつぶやきを、リツイートで発見したこと。これが職業人の品格です。

それにしても、でっちあげに依拠した神学書を堂々と出していた老舗の版元等々、日本の出版業界はいま、本が売れる売れない以前の危機にあるのでは。

いい本を書こう、と思いました。