死霊の表象

伊藤慎吾・中村正明共著『<生ける屍>の表象文化史ー死霊・骸骨・ゾンビ』(青土社)という本が出ました。帯には「死霊はどのように描かれてきたのか」「イザナミからゾンビまで」とあります。また総論の冒頭には、「<死>というものを即物的に<死体>として捉えてみると、そこには<生と死>のもつ重みとはまた別な、恐ろしくも面白い<軽み>のある文芸の領域に広がっていることが分かる。」と言っていて、奇談・小説・絵画はもとより、落語・映画や、ゲーム・漫画などのサブカルチャーの世界まで、ひろく死霊(死んでいない死者 living dead)の話題を追求しています。

伊藤さんは妖怪やサブカルチャーに詳しく、中村さんは草双紙の専門家ですが、話題は広く、『日本霊異記』や『古事記』から今年1月放映のTVドラマまで、雑多に抱え込んでいます。本書の構成は、総論・第1部Night of Living Dead前近代・幕間Dawn of Living Dead近代前期・第2部Day of Living Dead近現代・<生ける屍>年表 となっており、幕間が案外面白い。とにかく話題が多すぎ、著者も無理に体系的に書こうとする所存がないようで、話があちこちで重複していたりします。いっそ巻末の索引を見て、自分の興味のある箇所から読み始める、というのがいいかもしれません。

昨年、日文研の共同研究会で、伊藤さんのゾンビに関する発表を聞いたときは、その博識に驚き、こういうものまで情報収集しながら研究時間はどうやって確保出来ているんだろう、と思ったものでしたが、これも研究の一環だったのですね。

遡れば「鬼」は、もともと漢字では亡魂を意味したことを もっと意識してもいいのではないかと思いました。それから蛇足を一言ーNHKは(未だ、少なくとも組織としては)国営放送ではありません。